不妊と中学的な要因

はり治療を受ける患者さんの中には、治療効果を求めるのは当然ですが、東洋医学の考え方に興味をもっている方もいらっしゃいます。東洋医学といっても非常に広範ですし、様々な考え方が存在します。ここでは当室で行っている中医学の弁証について、妊孕性と関連性の深い部分のエッセンスを簡単に紹介しておきます。

現代中医学では、不妊症を腎虚、肝鬱、痰湿、血瘀、湿熱、血虚などといった証型(証≒病態)に分けて考えます。これらの証は単独で現れることもありますし、複数が現れることもあります。

腎虚
まず、腎について生殖に関するところを簡単に説明しておきます。現代医学における腎臓は主に排尿に関係する臓器と認識されますが、東洋医学における腎はもっと広い概念を含んでいます。例えば、蔵精(ぞうせい)。精(精気)とは生命活動を維持する基本物質のことで、腎の中に貯えられています。成長発育・生殖に深くかかわるとされています。精気(腎中の精気)が充満すると、天癸(てんき)という物質を産生し生殖機能の維持促進を図ります。臨床的には、さらに腎気虚、腎陽虚、腎陰虚などに分類されます。

腎と不妊には密接な関係があります。腎気の不足、腎陽・腎陰の不足は、天癸の不足、任脈(にんみゃく:妊娠や胎児の発育に関与する)の不足、子宮や卵巣の発育不良などをもたらし、月経異常や不妊・不育の原因となります。

肝鬱証
臨床的には、乳房の張痛、梅核気(ヒステリー球)、イライラ、排卵障害、月経不順といった症状がみられることが多いです。肝の重要な生理機能に疏泄(そせつ)があります。経絡の通りを良くし、気の流れをスムースにすることで臓腑や器官の正常な活動を促進するといった作用です。任衝脈通じて胞宮(子宮)に影響が及ぶため、生殖機能への影響は大きく、特に排卵は肝鬱の影響を受けやすいとされています。。

痰湿症
長期にわたり水液の代謝が障害されることで生じる痰湿が臓腑や経絡の機能に影響を与えて生じるものです。脾胃(消化吸収や血液の循環などに関係する)の虚弱、腎陽虚や肝鬱による疏泄の失調が脾に影響するなどが背景に存在することがあります。これが胞宮(子宮)に影響し月経関連では、月経は遅れ、無月経、経血量は少ない、経血粘り気が強くなる、帯下が多くなるといった症状が生じ易くなります。

瘀血症
瘀血(おけつ)というのは血液の流れが滞った状態とでも理解してください。瘀血を生じさせる要因は様々で、寒、熱、虚、実、外傷などはすべて瘀血の生成要因となり得ます。子宮内や子宮へと注ぐ経絡(胞脈)の流れを滞らせることで不妊を引き起こすとされています。臨床では瘀血の要因が何であるかによって治療法は異なります。その要因によって患者さんの日常生活での対処法も異なってきます。鍼灸ではポピュラーな概念であるために自分の状態を正確に把握することが大切です。

血虚証
血(液)の不足により滋養作用が低下した状態を指します。脾胃虚弱(消化吸収力の低下)や飲食の摂取自体の不足、久病(慢性的な病)多量失血などが背景にあることが懸念されます。全体的な不足の影響を受け、子宮や卵巣へつながる経絡が血虚となることで滋養低下となり、妊孕性を低下させるとされています。

 

臨床的には月経のステージや使用している薬剤の影響、サプリメント、心理的な影響なども考慮しながら対応策を検討していくことになります。