光線治療のミトコンドリアに対する作用

“近赤外線のビーム照射により卵胞の機能改善や卵質の向上を図ることが出来ます”…と云われても半信半疑の方がほとんどなのではないでしょうか?実際に当室の患者さんにおいても“温めて血流良くしているだけでしょ?”“血流なら薬もサプリも使っていますから…”“本当に効果があるなら何故もっとメジャーになっていないの?”などと、否定的な反応を示す方もいらっしゃいます。

 

一般に、年齢による卵の老化に対しては、現代医学では有効な対処法はないとされています。薬剤やサプリ、鍼灸などにより、血管の老化により低下しているであろう卵巣内の血流を改善しつつ、卵胞の発育環境を良好な状態に維持する。場合によってはエストロゲンなどを投与しホルモンに対するレセプターの感度を上げて卵胞の発育を促すといった方法が行われることがあります。

 

物理療法や生殖分野で使用されているスーパーライザーや半導体レーザーは、確かに近赤外線領域の波長を使用していますので、深さにもよりますが確かに温熱効果はあるかもしれません。動物を使ったある研究では、深部到達性の高いプローブ(照射ノズル)を使用しても、わずか3㎜の脂肪を通過できる光量は約40%程度であり、筋の厚さが8㎜で約10%ほどだそうです。頸部の星状神経節への照射の場合には皮膚からの距離が2㎝と仮定して光の透過量は数%と推定されています。

 

私は以前から医学書などでLLLT(low reactive level laser therapy)が卵巣や卵子の加齢による機能・質低下に対して一定の効果があることは知っておりました。しかし、星状神経節照射などによる血管抵抗の低下が血流改善を促すと説明されていたために、あまり興味を示すことはありませんでした。

 

このところ、主にガンやミトコンドリア病などの領域の研究で、photoreceptorと光線に関する研究を目にすることが増えてきました。フォトレセプターって耳慣れない言葉ですが、光の量子エネルギーを吸収する物質とお考え下さい。そしてそのフォトレセプターは、細胞内のミトコンドリアの中に数量ともに多く存在しているのです。細胞にはたくさんのミトコンドリアが存在しATPの産生だけでなく、ヘムやステロイドの合成、細胞内のCa²⁺の調整、脂質の代謝、アポドーシスなどに関与しています。生殖細胞内のミトコンドリアは通常の細胞の数百倍も存在しています。

 

卵巣内の血流を改善するだけでなく、卵胞や卵子のフォトレセプターにフォトンのエネルギーを吸収させれば卵巣や卵胞の機能がある程度回復するのではないのか?
このようにして、当室では「鍼灸による血流や免疫の観点からの不妊治療」にプラスして、妊孕性改善のための光学治療を提供しています。

 

フォトレセプターの具体的な働きは、種類も多く最先端領域の研究でもありますので書ききれるものではありません。ここでは、例としてポルフィリンについて簡単に説明しておきます。なぜポルフィリンなのかといえば、不妊で長年お悩みの方であれば、アミノレブリン酸(5-ALA)というサプリメントを耳にしたことがあるでしょうから、そちらとも少し関連するということで取り上げました。

 

5-ALAは細胞内のミトコンドリアで合成されています。ミトコンドリアの外へ移動し、PpIX(プロトポルフィリン)を合成するための必要な部品を作った後で、再びミトコンドリアに移動しPpIXを合成し、更にはヘムを合成します。このヘムが様々な活動に関与していきます。

 

PpIXはフォトレセプターですから、これにある波長の近赤外線を照射すると細胞の活動が活発になることが確認されています。5-ALAはそもそもミトコンドリアで合成されていますから、老化した細胞のミトコンドリアではその合成も低下していると考えられます。光線の照射によりその合成も高まると考えられます。また、外部からサプリメントとして補給することで細胞内のミトコンドリアの活動が再び向上するのではないかというのがアミノレブリン酸サプリの考え方です。

 

加齢や早発卵巣不全などにより卵胞発育や受精後の分割の状態が悪い
FSHが上がってしまっている
子宮内膜が厚くならない
黄体期の不全の傾向がある(高温期が短い、温度の上昇幅が狭い)
月経周期が長い

 

などの患者さんでは、照射方法の工夫により当初の想定よりも早く状況が改善しています。

PpIXはほんの一例です。同様のフォトレセプターがたくさん存在します。それぞれのフォトレセプターにより吸収する波長が異なります。また、単に照射すればよいというものでもなく、下手をすれば活性酸素種ROSが増加し逆効果も懸念されます。(この生殖からは逆効果といえる作用を利用し発展させたものが”がんの光線力学的治療”です)

 

患者個々の生殖系の状態を把握、照射対象部位の身体的特徴の考慮、適切な器具を選択、光線の波長や吸収傾向、照射部位、照射時間、出力などいろいろと難しい問題をクリアすることでより良い効果が得られます。
生殖と光線双方に通じた臨床家にご相談ください。

 

2017年08月28日