ストレスと不妊との関連を考える

ストレスが人の身体に影響を与えることは広く知られています。生殖系では、ストレス性の無月経や排卵障害などを思い浮かべると、その影響の大きさを理解しやすいのではないでしょうか。

そもそも、ストレス学説はハンス・セリエが提唱したしたものです。①外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応ストレス。②ストレスを引き起こす外部環境からの刺激を「ストレッサー」といいます。

生体に影響を与える外部刺激すなわちストレッサーには様々なものがあります。生殖分野に関連し得るものを少し具体的に挙げてみます。

①物理的ストレッサー:温度(寒冷・暑湿など)、気圧、放射線
②化学的ストレッサー:薬物、化学物質、PH
③生物的ストレッサー:炎症、感染
④心理的ストレッサー:怒り、緊張、不安

ストレッサーに対する生体の反応は、警告反応期、抵抗期、疲弊期の3つの過程に分類されます。
警告反応期はストレッサーに対する適応反応を準備する時期で、生体が適応反応し始めると「苦痛・不安・緊張の緩和、神経伝達活動の活性化、血圧・体温の上昇、筋緊張促進、血糖値の上昇・副腎皮質の肥大・胸腺リンパ節の萎縮」といった現象が見られ、一般的にはこの反応をストレスと呼んでいる場合が多いかと思います。
抵抗期はストレッサーとストレス耐性(抵抗力)が拮抗した状態でストレスを感じる状態が継続しているといえます。
疲弊期とは、ストレッサーが長期化したことにより、ストレス耐性が衰えてしまい、結果として身体が衰弱する状態です。

 

ストレス反応におけるノルアドレナリン作動性の交感神経系の興奮は一般によく知られています。しかし、それだけではなく副腎系の活性化という反応も存在します。これは、視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)の活性化が起こり、CHR(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、コルチゾールの分泌が亢進するという生体反応です。これらが、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌を調節しているGnRH分泌パルス頻度(GnRH:ゴナドトロピン放出ホルモン…FSHやLHの分泌を調節するホルモン)、Gn(ゴナドトロピン:FSH・LH)の分泌に影響を与え、結果としてエストロゲンやプロゲステロンの分泌に影響が生じることで、卵胞の発育や月経周期など影響が生じ妊孕性も低下すると考えられます。また、CHR(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)はHPA軸への影響だけにとどまらず、交感神経系に直接作用することも知られています。

 

これらを踏まえて再度ストレッサーを考えてみましょう。例えば、寒冷刺激(冷え)が長期化し不快感を覚えることで交感神経系が興奮し、血管が収縮し末梢循環が低下します。また、無月経や排卵障害などが起こるほどではなくても、長期化することでHPA軸への影響などを通じて生殖系のホルモン分泌に影響をあたえることが懸念されます。

また、コルチゾールが免疫系を低下させることは良く知られています。着床に免疫系がかかわっていることも明らかになりつつあります。寒冷ストレスが単なる血流障害で済まない可能性もあるということがお分かりいただけるかと思います。

 

長期間不妊で悩んでいる場合には、不安や緊張、プレッシャーなどの心理的ストレスにさらされている方がとても多いと感じています。このようなストレスも冷えと同様に交感神経系、内分泌系、免疫系などの絶妙なバランスに影響を与えてしまうことが懸念されます。

また、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)などのART、人工授精(AHI )などを行うと多くの場合は、採卵のために排卵を促す、胚移植のために排卵を止める、着床環境を整えるなどの目的で多くの薬剤を使用します。ホルモンレセプターを刺激したり、阻害したりするものが多いですから、身体にとっては大きなストレス要因となり得ます。採卵の際には卵胞液を吸引するために卵巣に太いゲージを刺入しますので、採卵後は卵巣が腫れてしまうことも少なくありません。卵巣にとっては決して小さくない物理的ストレス要因といえます。

取り除くことが可能なストレッサーを取り除いてしまえば、それに対する反応としてのストレスも元に戻ります。しかし、実際には治療上必要な処置であることも少なくなく、取り除くことが困難な場合もあります。

交感神経の興奮を抑制したり免疫系細胞数を増やしたり活性化するなど、ストレスによる体への影響を極力減らしながら生殖系の機能を整えていくことが、良質な卵を得ること、着床環境を保つことにつながると思います。鍼灸専門ライラック治療室で行っている鍼灸治療とはこのような治療です。

 

2017年05月15日