PCOS多嚢胞卵胞症候群

排卵障害を引き起こし月経異常や不妊の原因となる疾患の一つに多嚢胞卵胞症候群(PCOS)があります。排卵障害の女性の79%にPCOSの疑いがあるという報告もあります。PCOSは卵巣の中でたくさんの卵胞が発育しますが、ある程度の大きさで止まってしまうことで排卵に影響が出ます。月経異常やニキビ、多毛、肥満、不妊といった症状を引き起こし、超音波検査では卵巣に多数の小卵胞が認められます。内分泌の異常や糖代謝の異常が原因と考えられ、様々な要因が関与する複雑な病態であると云えます。

 

診断基準では次の3つをすべて満たすこととされています。


月経異常

注)月経異常は、無月経・稀発月経・無排卵周期症のいずれかとする。

多嚢胞卵巣

注)多嚢胞卵巣は超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2-9mmの小卵胞が10個以存在するものとする。

血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常

注)内分泌検査は排卵誘発薬や女性ホルモンを投与していない時期に、1㎝以上の卵胞が存在しないことを確認のうえで行う。また、月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低いことに留意する。

注)男性ホルモン高値は、テストステロン、遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い、各測定系の正常範囲上限を超えるものとする。

注)LH高値の判定はスパックSによる判定の場合にはLH≧7mlU/ml(正常女性の平均値+1×標準偏差)かつLH≧FSHとし、肥満例(BMI≧25)ではLH≧FSHのみでも可とする。その他の測定系による場合はスパックSとの相関を考慮して判定する。

注)クッシング症候群、副腎酵素異常、体重減少性無月経の回復期など、本症候群と類似の病態を示すものは除外する。


 

日本人の場合には、肥満や多毛などの症状は比較的少ないとされています。多嚢胞卵胞症候群はLHの分泌過剰やアンドロゲンの過剰、インスリン抵抗性などの所見が見られますが、ざっくり云えば次のような作用です。

PCOSでは無排卵となることが多いためプロゲステロン(黄体ホルモン・・・GnRHパルス分泌を抑制する作用あり)が不足します。このためパルス頻度が高くなりLHが増加します。これにより莢膜細胞は増殖しアンドロゲン合成酵素や蛋白が増加してアンドロゲンの産生過剰が促される。また、過剰なインスリンも高アンドロゲン環境を引き起こします。

 

PCOS女性の血中AMH(抗ミューラー管ホルモン)は非PCOS女性よりも高いことが分かっており、その重症度とも相関すると報告されています。単に小胞状卵胞の数が多いから高いのではなく顆粒膜細胞におけるAMHの産生分泌能が亢進している可能性も指摘されています。このことはFSHの作用・アロマテーゼの発現を低下させ、小胞状卵胞以降の発育に影響を与えることを示唆しています。

 

PCOSの排卵障害・月経異常は、稀発月経>第1度無月経>無排卵周期症>第2度無月経 であり、非常に治療に抵抗を示す例もありますが、治療により排卵可能なものが多いと云えます。多くの女性では自然妊娠が可能であるという報告もあります。

 


治療の考え方は、すぐに妊娠することを希望するかどうかで変わります。

●すぐに妊娠を希望する場合(不妊患者など)
排卵を起こすことを目的に治療します。(排卵誘発など)
●すぐには妊娠を希望しない場合(独身者やもう産む予定のない方など)
無月経(月経が3か月以上ない)状態を改善して子宮内膜増殖症や子宮体がん(子宮内膜がん)などの発症を予防することが重要となります。必ずしも排卵は必要ではなく婦人科ではホルモン補充(カウフマン療法やホルムストローム療法など)で消退出血を起こすことが多いと思います。

鍼灸治療の場合には、継続治療により自然排卵が可能となるケースが多くみられます。

●妊娠希望の方の場合
鍼灸単独で排卵妊娠にいたるケースもあります。婦人科でクロミッド(メトホルミンを併用する場合もあります)を処方されてもなかなか排卵しない場合に鍼灸を併用することで排卵するケースも多数あります。PCOSの場合は過剰刺激症候群(OHSS)回避するためにあまり強い卵巣刺激は避けたいところです。婦人科の治療に鍼灸を併用することを是非検討していただきたいと思います。
●妊娠希望しない方の場合
やはり継続治療により自然排卵するケースも少なくないため、鍼灸治療で無月経(3か月以上月経がないもの)状態が解消される場合には、そのまま鍼灸治療の継続でよろしいかと思います。無月経状態が解消されない場合には、医師の処方により排卵誘発剤や漢方の併用をしたり、ホルモン補充で消退出血を起こす必要があります。多嚢胞卵胞は症状が固定的ではなく、その時の患者さんの状態により症状の重軽は変動します。状況をみながら適切な治療法を選択します。治療期間が長期にわたるため、あまり薬に頼りたくない方には鍼灸治療は向いています。

当室では、中医鍼灸を行っているため通常通り弁証を行い治療方法を決定していますが、経験的には痰湿や瘀血の影響と思われる患者が多いように感じています。

痰湿の症状には、むくみ、身体が重い(特に下半身)、悪心、胸が苦しい、おりものが増える…などの症状がよくみられます。

瘀血の症状はこちらをご参照ください。

 

2016年06月23日