股関節の痛み

慢性的な股関節の痛みを考える際に考慮すべきことは、”関節=骨組織”ではないということです。「関節が変形しているから鍼灸治療の対象ではない」・・・股関節に限らず腰椎などでも時折り耳にするフレーズですが、これは正確な表現ではありません。骨とともに多くの筋腱、靭帯などが関節を構成することにより、その運動が可能になっていることを忘れてはいけません。股関節の場合、手術しか選択肢がない状態ですぐに手術が可能な場合であれば特に問題はないでしょうが、何らかの事情によりすぐには手術を受けることが出来ない場合、保存療法の対象である場合などには、鍼灸は痛みの軽減法として有効です。患者の状態、環境、鍼灸の特性を考慮してどのように活用するのかが重要だと考えます。

当室で扱うことが多いのは慢性的な股関節痛です。

原因は様々でしょうが

  • 過使用によるもの
  • 捻挫による痛み後遺症関節の変形・炎症

などが挙げられます。

筋腱の痛みといっても、関節の運動を担う筋の疲労や捻挫による筋線維損傷のトリガー変性による慢性痛も考慮しなければなりません。また、関節の変形も背景には長年に及ぶ関節への負担による累積疲労もあるでしょう。関節痛の一部を構成する筋腱の痛みといっても治療が容易いわけではありません。また、股関節の場合は腰部と連動してモーションを構成しますから、どちらか一方の痛みが互いに影響を与え合うこともあります。

股関節の周囲はとても厚みのある組織です。深部に痛みがある場合でも技術のある鍼師であれば直接にアプローチすることが可能です。

当室では、加齢によるもの、スポーツによるもの、関節変形を伴うものなど数多の症例があります。

当室の場合、慢性的な痛みで受診される方が多いためほとんどの方は既に整形外科を受診されてから来院されますが、原因に心当たりがないのに急に痛みが発症し、体重負荷をかけることが出来ないような場合とか、高齢者の転倒後に生じた痛み”などは、まず整形外科でメディカルチェックを受けることをお勧めします。重篤な疾患や負傷の可能性を排除した上で鍼灸を活用しても決して遅くはありません。

臨床例1~股関節の慢性痛(30代女性)

慢性的な殿部(大転子)の痛みを訴えて来院。痛みは3年以上に亘って継続しているという。整形外科、婦人科において検査を受けているが特に器質的な異常は見当たらなかったという。痛みによる運動制限は特になく、またスポーツをせずにおとなしくしていても鈍痛が治まることはない。また、他の部位の痛みについても、時折り肩が凝る以外は特にはない。

腰部と殿部に冷えがあるため、同部及び下肢の関連経穴に治療点を求め鍼灸治療を行う。得気後置鍼、及び点灸施灸。

施術後数日間の痛みの緩和が認められたため、週に1回程度治療を行うこととした。およそ半年間、同様の一時的寛解を繰り返したが徐々に痛みが軽減される期間は長くなってきた。その後治療間隔を長くしつつ継続治療した。およそ一年後には月に一回程度の治療で済むようになったため、ひとまず継続的な治療は中止し、少し痛み始めたら治療を受けることとした。

その後この患者は結婚により当地を離れるまで時折り来院されていたが、以前のように特に症状が悪化することはなかった。

臨床例2~変形性股関節症(40代女性)

変形性股関節症と腰椎分離症による腰下肢痛により来院。股関節に関しては、痛みが激しく杖を突かなければ歩行は困難な状態。セカンドオピニオンも含め複数の病院から手術を勧められていた。可能な限り手術は回避したいという希望と仕事上の都合により急には長期休暇を取得できないという理由により当室に相談に来られた。

鍼灸治療開始後数ヶ月間は、股関節および腰部の痛みは緩和された状態がたもたれ、杖なし歩行も可能な状態となった。しかし、その後股関節周囲の痛みは徐々に悪化し始めたが、鍼灸治療により3日間程度の疼痛が緩和されたため手術受けるまでさらに一年間ほど鍼灸を併用し疼痛をコントロールしながら仕事を続けた。

臨床例3 股関節手術後疼痛(70代女性)

階段における滑落により大腿骨頸部を骨折し手術により人工骨頭に置換した。退院後半年を経過するが股関節が痛むため歩行が困難であると家族から相談された。救急搬送で入院手術を受けた病院が遠方のため、退院後は特にリハビリには通院していないという。

とりあえずは歩行不能なため、定期的に往診し鍼灸治療を行った。また同時に、毎日自分で温灸を行って頂くこととした。鍼灸治療後のみならず、自らの施灸後も疼痛が緩和されたため積極的に自己施灸を行ってもらうことができた。疼痛の緩和と共に徐々に体操・訓練を行ってもらい筋力の回復を図った。治療開始から8ヶ月ほどでショッピングカートにつかまれば、近所ならば外出可能となったので治療を終了した。

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