がんと鍼灸

がんの治療は、手術、抗がん剤、放射線、免疫療法の4つが基本になるかと思います。現代医学の治療には、副作用や後遺症が伴うものが少なくないうえに、病気の性質上がん患者は不安や精神的ストレスにさらされることも多い。副作用が大きければ苦痛が増すだけでなく、治療計画そのものの変更を余儀なくされることもあります。このようながん治療による副作用や不安・ストレスによる身心への影響を緩和軽減することは、長期にわたりがん治療を受けなければならない患者にとってはメリットになるかも知れません。

 

がんと免疫

がんと免疫には密接な関係があることが判明してきています。その関連性を示唆する報告には以下のようなものがあります。

  • 臓器移植に伴い免疫抑制剤を長期間使用すると、後々さまざまながんが高い頻度で発症する。
  • がんの腫瘍に浸潤するリンパ球(白血球の一種)が多いほど患者の予後も良い傾向がある。

これらは、免疫がある程度がんの発症を防いだり、あるいはその進行を抑制している可能性を示唆しています。

1950年代には、免疫系、特にリンパ球ががんの発生から守るという「がんの免疫監視機構」cancer immuno-surveillance という概念が提唱されました。その後の研究で実際に排除可能ながんは、抗体や細胞性免疫を誘導する性質(免疫原性)の高いがんであり、免疫原性の低いがんは増殖を続けることが判明しました。このため、現在では免疫編集 cancer immuno-editing という概念に発展しています。
免疫編集とは、がんと免疫の相互作用には

  • ①排除相:免疫原性の高いがんが排除される
  • ②平衡相:がんは完全には排除されないが急速に成長もしない
  • ③逃避相:免疫系からの逃避、成長、転移などに有利な性質をがんが獲得する

以上の3つの相が存在するという概念です。

がん患者に対する鍼灸治療の効果の根拠

「本当に鍼灸は効果があるのか?」と疑問に思われる方も多いかと思います。一口に鍼灸といっても、様々な方法がありますし、患者さんの状態により同じ症状であってもアプローチ法が異なる場合も多いためその効果の証明はなかなか難しいのが現状です。

がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版」~日本緩和医療学会 によれば、鍼灸治療で論文上有効性が確認されるのは今のところ次の3つです。

  • 鍼灸治療は全般的なQOLを改善する
  • 鍼治療は化学療法による悪心嘔吐を軽減させる
  • 灸治療は骨髄抑制を軽減させる

がんの補完代替医療ガイドブック第3版」~
厚生労働省がん研究助成金「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班
国立がん研究センターがん研究開発費「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班
では鍼灸の効果は以下のように紹介されています。

  • 抗がん剤の副作用による嘔気嘔吐に対する有効性
  • 手術後の嘔気嘔吐への有効性
  • 痛みなどの症状の改善
  • QOLの向上

がん治療における鍼灸の役割

臨床上、がんとして見つかるものはある程度の大きさまで成長していますから、免疫に対する抵抗性(逃避)を獲得しているか平衡状態にあると思われます。ですから、鍼灸治療の第一の目的は緩和ケアを行い現代医学による治療をサポートすることになります。

がんの治療を考えるうえで、化学療法や放射線療法の副作用や手術後の後遺症に対するケアを行いその症状の軽減を図ることは、治療を断念することなく進めるためにも大切なことだと思います。強い嘔吐に耐えられないとか白血球値が低下しすぎたために感染症のリスクが増大し、治療計画を変更せざるを得ないということは決して珍しいことではありません。当室では、基本的にがん治療に伴う苦痛を緩和し、気持ちを前向きに持っていただくことで必要と判断される治療をきちんと受けていただくお手伝いをいたします。

骨髄抑制の軽減
骨髄は細胞の分裂が活発で抗がん剤や放射線の受けやすいため、白血球・赤血球・血小板の減少が起こることがあります。このため、感染しやすくなったり、貧血を起こしたり、出血が起こりやすくなります。透熱灸および鍼を組み合わせることにより、主に白血球の減少緩和を図ります。
嘔気嘔吐の軽減
化学療法による悪心嘔吐は、化学療法開始後24時間以内に発症します。この急性悪心嘔吐を軽減することは、その後遅れて発症する遅発性の悪心嘔吐にも影響を及ぼすとされています。薬剤による予防も試みられますが、鍼灸によっても軽減を図ります。
末梢神経障害の軽減
末梢神経障害とは、手足の感覚神経障害をはじめ、筋力低下や麻痺などの運動神経障害、血管や腸管などに影響がおよび起立性低血圧や便秘、発汗異常などの自律神経障害をいいます。一度症状が現れると長期間症状が改善しないことが多いため、末梢循環の改善を促し症状の予防軽減を図ります。
気分や不安の改善
鍼灸治療は原因によらず多彩な症状の緩和軽減に長けた治療法です。抗がん剤などよる副作用を緩和するだけでなく、不安・ストレスから生じる凝りや痛みを緩和することで、QOLをの向上を図り少しでも良い体調での治療継続を促します。
免疫力の向上
鍼灸治療はある種のインターロイキン(IL)やインターフェロン(IFN)を豊富にします。自然免疫系のNK細胞(白血球の仲間)はサイトカイン(ILやIFNなど)で活性化します。

鍼灸治療の第二の目的は、再発の軽減に努めることだと思います。鍼灸で自然免疫系をアクティブにしつつ、ネガティブな影響を与え得るストレスや冷えの改善を図ります。

現代医学におけるがん治療の方法は、がんの種類やステージにより様々です。当室の鍼灸治療は、患者さんの状況を考慮しつつ、通院鍼灸、自宅施灸を組み合わせて進めて行きます。

 

患者さんからのメッセージ

50代女性

悪性リンパ腫で、半年ほど抗ガン剤治療を受けました。覚悟はしていましたが、副作用には悩まされました。吐き気は自覚症状がありますし、吐き気止めがいろいろ出ているので、それなりに抑えられます。が、骨髄抑制による白血球数の減少(=免疫力の低下)だけは、どうしようもありませんでした。癌患者のなかには、白血球が少なくなりすぎて、次の抗ガン剤が予定どおり投与できなくなる人もいます。二ツ山先生に相談し、漢方薬と平行して週2回、肌に直接お灸を据えていただくことになりました。抗ガン剤治療中は頻繁に血液検査をしますが、白血球値はあまり下がらず、主治医が首をかしげるほどでした。おかげで無事、当初の予定どおり抗ガン剤治療を終えることができました。悪性リンパ腫は再発率が高いので、完全寛解(201●年5月)も、引き続きお灸に通っています。1人でも多くの癌患者がお灸の効果を享受できますよう、願っています。

 

がんに関する基礎知識

白血球の仲間

白血球には大まかに以下のようなものがあります。がんとの関係でいえば、リンパ球や単球が関係してきます。

リンパ球:T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞
単球:マクロファージ、樹状細胞
顆粒球:好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞

 

 

つづく

 

 

 

 

 

よくあるお問い合わせ(FAQ)

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