不妊治療の基礎

妊活をしている方が知っていた方が良いかもしれない知識を少しずつ解説していきます。

一般不妊検査

まず初めに産婦人科を受診した場合に行われる検査です。月経期・低温期・排卵期・高温期それぞれに血液検査、超音波検査などを行います。

血液検査
生殖に関係するホルモンや生殖機能に影響を与えるホルモン(甲状腺関係のホルモンなど)に異常がないかを調べます。月経期・卵胞期(低温期)・排卵期・黄体期(高温期)といった月経の各ステージで調べることになりますので、1~2周期ほどかかります。

月経期:E₂,FSH,LH,PRL,T...etc.
低温期:LH,E₂ ...etc.
高温期:P₄...etc.
卵巣予備能の目安としての:AMH

評価の一例)
月経中のE₂,FSH,LHをホルモン基礎値として評価することがある。
高温期中期のp₄: 5~10ng/mL(黄体期の不全を疑う), 5ng/mL未満(無排卵の疑い)
超音波検査
超音波を用いた画像検査では、子宮の筋腫や内膜ポリープなどの状態をチェックします。月経周期に合わせて卵胞の発育をモニタリングし、月経期のまだ小さな卵胞を確認したり、排卵時期の推定などをします。また、子宮内膜の厚さを計測し受精卵が着床できる状態になっているかをチェックします。

評価の例)
月経中の前胞状卵胞数(AFC)は卵巣機能を推定する材料の一つとなる。
頸管粘液検査
子宮頸部に分泌されている粘液です。排卵期にこの粘液の性状が変化、頸管粘液内の抗精子抗体などをチェックし、精子が子宮内に侵入できる状態になるかを調べる検査です。頸管粘液検査(CMT)では、量、牽糸性、粘性、結晶形成(シダ状)、細胞濃度、PHを調べます。
頸管粘液は、排卵が近くなるとサラサラして良く伸びるようになり、色も半透明化して、分泌量が増えます。ちなみに、排卵直前の頸管粘液の牽糸性は10㎝以上となります。
フーナーテスト(性交後試験:PCT)
頸管粘液と精子の相互作用を調べます。性交後に頸管粘液を採取し、粘液中の精子(前進運動精子、不運動精子など)の状態を確認します。。
甲状腺機能検査(血液検査)
甲状腺の機能異常は不妊や不育の6%認められるとされており、不妊や流産と密接に関連があります。
明らかな甲状腺機能異常だけでなく、潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンは基準値内で、甲状腺刺激ホルモンが高めの状態)と不妊・不育の関連性も明らかになっています。潜在性甲状腺機能低下症は不妊女性の10%に認められます。
アメリカのガイドラインでは妊娠初期のTSH値上限は2.5mlU/Lとされていますので、妊娠前にこれ以下にコントロールすることが望ましいとされています。
子宮卵管造影検査(HSG)
卵管の通過性(閉塞や狭窄)、卵管周囲癒着を推測するために行われる一般的な検査。
造影剤を注入することで閉塞した卵管が再開通する場合があるという治療的効果も望める。

卵管通過性の評価の信頼性)
腹腔鏡検査を検査を基準とした場合に
感度65%:卵管が閉塞していなくても35%が閉塞と判定される
特異度83%:閉塞している場合は83%の確率で閉塞と判定される。

関連:卵管の疎通性・癒着
 

fertile window (妊娠可能な期間)

ファーティルウィンドウとは、妊娠が成立する可能性がある期間で、排卵後の卵子が受精や胚発育の能力を保てる期間や子宮卵管内で精子が生存できる期間などにより決定される。一般的には「排卵日の前5日間+排卵当日」の6日間とされている。妊娠が成立しやすい確率は年齢を問わず排卵の2日前が最も高い。卵子は排卵後16時間ほどで胚発育能が低下するため、妊娠が成立しても流産リスクの増大が懸念されます。これを考慮すると排卵前日および前々日を逃さないことが大切になります。

自分で可能な排卵の予測

月経周期日数-14日を排卵日と仮定する
これは、月経周期が安定していて、高温期もしっかりしていることが前提になる推定方法です。排卵までに要する日数が安定していると考えられるので、Fertile window(妊娠可能期間)内に複数回の性交渉をもつようにすることが推奨されます。
基礎体温を測定して排卵を予測する
基礎体温の変化により正確に排卵を予測することは難しいです。
超音波を用いて基礎体温による排卵予測との一致率を調べると以下のように報告されています。
最低体温日(51.8%)
体温陥落日(56.3%)
低温期最終日(62.5%)
高温期初期導入日(26.8%)

ある程度の予測は可能ですので、ゾーンとして捉えて複数回の性交渉が望ましいといえます。
注意)
黄体化破裂卵胞症候群(LUFS)の場合には排卵しなくても基礎体温は2相となります。これは卵胞が破裂(排卵)しないまま黄体化する状態です。
頸管粘液(膣分泌物)の変化を観察する
エストロゲンの作用により一般に排卵の5~6日前から頸管粘液は増加します。エストロゲンの分泌は排卵の2~3日前にピークになり、これにより頸管粘液は透明性が増し粘稠度が低下する。排卵直前には牽糸性が10㎝以上になり、サラサラで良く伸びる状態になる。
排卵検査キットを使用する
尿中のLHを検出するためのもの。LHサージは停止していた卵子の減数分裂を再開させる役割を担っています。
LHサージの開始から24~36時間で排卵となる。LHサージがピークに達した時点から10~12時間で排卵に至る。
妊娠率が最も高いのは排卵の2日前であるため、場合によっては最も可能性の高いタイミングを逃す可能性もある。また、偽陽性・偽陰性の可能性が5~10%ほど存在することに留意。

 

不妊治療で使用される排卵誘発剤

クエン酸クロミフェン
クロミッド・セロフェンのことで、排卵誘発剤としてポピュラーなものです。卵胞から分泌されるエストロゲンが結合するレセプターをブロックすることで、ネガティブフィードバックが働かなくなりFSHが上昇する。卵胞刺激が増大する。一方、血中半減期が長いため複数排卵と抗エストロゲン作用(頸管粘液減少、子宮内膜の菲薄化)が生じやすい。
アロマテーゼ阻害薬(フェマーラ)
本来は閉経後のエストロゲン依存性乳がんに対して使用される。体内でエストとロゲンを産生するのに必要なアロマテーゼを阻害することで、低エストロゲン状態を作りFSHの濃度を上昇させる。血中半減期が短いため単一排卵となることが多く、子宮内膜や頸管粘液への抗エストロゲン作用がない。排卵誘発剤として保険適応はない。
hMG・FSH製剤
hMGはヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(閉経下女性の尿から抽出された性腺刺激ホルモン剤)といいます。ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)にはFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)があります。hMGはFSHとLHの双方を含んでおり、FSHをできるだけ取り除いたものをFSH製剤といいます。遺伝子組み換えにより作られたFSH製剤をrecombinant FSH(リコンビナントFSH)といいます。
GnRH agonist
GnRHレセプターに作用し、FSH・LHを分泌させる作用がある。投与を継続するとGnRHレセプターは細胞内部に移動し表面から消えてしまうため、作用出来ない状態となる。このような反応を利用して、short法とlong法が行われている。
GnRH antagonist
FSH・LHを分泌する下垂体前葉のGnRHレセプターに結合し、脱感作させることでFSH・LHの分泌を抑制させる。よって、GnRH antagonist 自体は排卵誘発剤ではない。hMGやFSHと併用しLHサージを抑制することで複数卵を発育させることが出来る。GnRH antagonist法

排卵誘発法

生殖補助医療(ART)は卵巣(卵胞)から卵子を採取して、体外で受精・培養し、子宮内に戻す(胚移植)する方法です。まずは卵子を育て採取することから始まります。基本的な考え方はいくつかあります。医師や施設ごとに考え方の違いや得て不得手があり、患者自身が必ずしも選択できるわけではありません。

調節卵巣刺激COS(いわゆる高刺激)
ロング法・ショートがありますが、多数の卵子の獲得を目的に、GnRH agonist(アゴニスト)やhMG・FSH製剤などを用いて強く卵巣を刺激する方法。GnRHアンタゴニスト法はhMG・FSHで卵巣刺激し卵胞が大きくなったところでGnRHアンタゴニストを用いて排卵を抑制しつつ卵胞発育を促す方法。
卵巣予備能(≒卵巣の力)が強く薬剤刺激に対する卵巣のレスポンスが良好な場合に適しているといえます。
低卵巣刺激法MOS
クエン酸クロミフェン(クロミッド)やレトロゾール(フェマーラ)、もしくは少量のhMG・FSHなどを用いる方法で、あまり多くの採卵は目指さない方法で、患者の身体的な負担は比較的少ない。卵巣予備能が低下(AMHの低下など)してきて、刺激による反応が良くない場合には、低刺激が向いているかもしれません。
自然周期法
自然な卵胞発育を利用する方法です。卵胞が大きくなったらhCGなどで排卵を誘起し採卵する方法。個々の状態により卵胞の発育が不安定であったりすることもあり、採卵ができない周期もあるようです。
ホルモン補充周期法
卵巣予備能が低下していて、自然周期法では卵胞の発育が難しい方が行う方法。エストロゲン製剤を用いてLHとFSHの上昇を抑制し、卵胞のLHやFSHに対する感度を上げる目的で行われます。状況によって、クロミッドを同時に用いて卵胞発育を促すこともあります。