慢性腰痛

腰痛は疲労や老化などでみられる一般的な症状です。しかし、数日間安静にしていても症状が改善しない場合は治療が必要です。腰下肢痛の原因となる病態は様々ですが、比較的よく見かけるのは、疲労や老化などが一因と思われる筋筋膜性腰痛、腰椎椎間関節性腰痛、変形性脊椎症、腰部椎間板ヘルニア、腰椎分離すべり症などです。患部に関節や骨の変形があっても末梢神経性の痛みであれば比較的良い治療効果が期待できるのであきらめる必要はありません。

腰下肢痛でも次のような症状が見られる場合は医師の診察が必要です。

  • 一番楽な姿勢で安静にしていても自発痛があり、その痛みが徐々に強くなってきている。
  • 歩いていると足の痛みやシビレが起き、休憩すると症状が改善する。
  • 排尿や排便に異常がある。

この様な症状がある場合は鍼灸治療の適応ではない疾患の可能性もありますので、まず医師の診断を受けてから鍼灸治療の可能性を検討した方が良いでしょう。

腰部の関節に変形が認められる場合に、もう治らないとあきらめてしまう方が時々あります。あまり簡単にあきらめる必要はありません。関節に変形が生じることにより、筋や靭帯などの軟部組織に負担がかかり痛みに大きく関与することは決して珍しいことではありません。筋骨構造と運動の力学的考察から負担が強いられる部分を推定し、鍼灸によりアプローチすることにより症状が軽減されるケースは数多存在します。

また昨今、慢性疼痛とストレスとの関係が取り上げられることが多いですが、これは「痛みは気の持ちようだ」という前時代的な根性論を指していのではありません。ストレスが自律神経を介し、局所の血流・代謝・感覚神経の敏感性に作用することにより痛みが生ずるということです。ストレスの原因に対して上手く対処できない場合には慢性的な経過をたどる場合が多いですが、だからこそ治療により痛みを軽減することが重要です。痛み感覚はヒトの感覚の中で最も嫌な感覚の一つです。これに対処しないということは、日常生活の質的な低下を招く一因となります。

東洋医学では、寒湿の停滞により体の中を巡っている経絡・気・血の流れが悪くなっている場合や、腎の蔵の生理機能が虚している場合などに慢性的な腰痛が生ずると考えられています。つまり、ある種の原因により患部が気血による滋養を受けられない状態が継続した場合に慢性腰痛が生ずると考えてもよろしいでしょう。

さて、治療の進め方は病態や症状の程度により大きく変わります。
具体的な治療に関しては個々の事情に症状の程度により大きく左右されます。ある程度継続して治療を行い全体的な痛みの程度を下げ、その後は間隔をあけつつその状態を維持するための治療を行うことが必要となります。

関節の変形など器質的なものが原因であっても、症状の緩和・軽減・維持ばかりでなく、痛み症状が消失する例は少なくありません。

また、一般に運動による筋の強化は慢性腰痛の治療上は重要ですが、運動により痛みが悪化する場合には、状態を見ながら徐々に運動を行うこと、腰の状態を考慮しながら自分の状態にあった運動を検討することが必要です。痛みが強い時期は安静を優先し、ある程度痛みが軽減してから取り組んだ方が無難です。あくまで腰痛の予防体操ですから。

臨床例~腰部・殿部・下肢の痛み(60代) 坐骨神経痛

4か月ほど前から両側の腰から足にかけて痛みはじめた(痛み:左>右)。整形外科にて検査を受け、腰椎は年齢相応といわれ、リハビリと鎮痛剤などの治療を受けていたが改善しなかった。以前、更年期障害で当室にかかっていたことを思い出して、当室が移転していたので探し当てて来てくださった。坐骨神経痛として治療を開始。最初の2週間は、週に3回ほど治療をした。これにより右側の痛みはほぼ消失。左の痛みは7割程度になった。以後、週に2回ほどの治療を行い、治療開始後2か月ほどで左の痛みも消失したので治療を終了した。

通常、両側性の下肢痛は慎重に適応の可否の検討を要するが、この患者さんの場合には診察から右側は梨状筋症候群、左足は腰部由来の神経痛と判断した。

 

臨床例~背部の筋緊張・痛み(30代) 転子果長差に由来

以前から、左の背中がこり過ぎて痛いと訴える。触ってみると左側の背中から腰の筋肉がガチガチに硬くなっている。よく診察してみると足(脚)の長さ(転子果長=大腿骨大転子から外くるぶしまでの骨の長さ)が3cmほど異なる。生まれつきとの事である。当初、本人の希望により背中のマッサージを行っていたが、その時は気持ちよいが終わるとすぐに辛くなるという。(※現在当室では都合によりマッサージは行っていません)

いくら器質的なアンバランスがあるとはいえ、少しは効果が継続しないと意味が無いので、低周波置鍼を行うこととした。鍼の響きと筋の収縮が気持ちよいという。治療後、背中がとても軽くなったという。その後、踵の高さを調整する補助具などを用い、月に1回ほど鍼治療を行うと比較的良い状態が保たれるようである

 

臨床例~腰部の痛み(20代女性) 育児疲れストレス

産後の育児により腰痛が悪化したといって来院。もともと独身時にも腰痛や肩こりで来院していた。睡眠不足、精神的なストレスなどもたまっているという。動作に伴う痛みだけでなく床に横になったときなどにも重だるい痛みが生じるという。全身的に治療を行い一進一退を繰り返していたが、腰部と下肢に皮内鍼を併用することにより症状が軽減され、その軽減状態が継続するようになった。

 

臨床例~腰部殿部の痛み(60代) 変形と疲労

腰がものすごく痛いといって来院。職人で仕事上腰に負担がかかるという。整形やマッサージ、ほねつぎなどにも1年ほど通っているが余り改善しない、困っているから何とかしろ・・・という。特別に変わったことはできないので、定期的な通院をお願いする。3ヶ月くらいで痛みは半分程度になった。その後は仕事の状態により、調子が良いときは2割程度、悪いときは5割程度の状態が続いた。一年ほどで概ね2割くらいの痛みとなり、調子が良いときには痛みを感じないこともあるようになった。

本人曰く、痛みが半分くらいになると何とか仕事も普段の状態に近い状態でこなすことが出来たそうだ。

 

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